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チェ・ウニョン『明るい夜』レビュー

 ずっと読みたいと思っていて、でも新刊でなかなか借りられず、思い切って買った本、チェ・ウニョンの『明るい夜』(古川綾子訳、亜紀書房)の感想。 以下は本の紹介。 ***** 夫の不倫で結婚生活に終止符を打ち、ソウルでの暮らしを清算した私は、九歳の夏休みに祖母と楽しい日々を過ごした思い出の地ヒリョンに向かう。 絶縁状態にあった祖母と二十二年ぶりに思いがけなく再会を果たすと、それまで知ることのなかった家族の歴史が明らかになる……。 家父長制に翻弄されながらも植民地支配や戦争という動乱の時代を生き抜いた曾祖母や祖母、そして母、私へとつながる、温かく強靱な女性たちの百年の物語。 ( https://www.ehonnavi.net/ehon/183171/明るい夜/ より) ***** 旅行である友人が言っていたこと。 大切なものはもうすでにある、ということ。 この小説を読みながら、このことを思い出さずにはいられなかった。 面白いことはすでにここにある。 そして大切なことは。 同居人の母のことを何度も考えた。 彼女の世代は、小説に出てくる主人公ジウンの母親、ミソンとちょうど同じ。 女性としてのアイデンティティが確固としてあり、それが強固なあまり、私にまで嫁としての役割を色々と期待してくる人間。 息子を助けるためには、なんでも惜しまない人間。 愛情があることはわかると同時に、そこまで踏み込んで息子を理解しようとする感じはない。 問題を認識するのではなく、その存在を無視する。 それは、主人公の母親、ミソンを彷彿とさせた。最近読んだ、ロバート ・コールター『統合失調症の一族』に出てくる、12人の子供の母親、ミミも。 この心理の底にはトラウマがあるだろうことを、ノンフィクションの『統合失調症の一族』では示唆できるにとどまるが、『明るい夜』はそれをえぐり出す。 それが可能なのが、小説という媒体なのだろう。 主人公、現代の韓国女性の心情や考えが微細に描写されるのも印象的だ。 例えば、感情を押さえ込むことを言われてきたせいで、「心がゴミ箱になってた」という話(313頁)。 そして最終的に、結局、自分を苦しめていたのは、夫の欺瞞であると同時に、自分の己に対する欺瞞であったという話(336頁) これは、フェミニズム的にも重要なテーマに触れている

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